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東京地方裁判所八王子支部 昭和49年(ワ)394号 判決

主文

1  被告は原告小泉うめに対し、金三一三万五、八五三円、原告小泉俊夫、同小泉浩三、同安延久美子に対し各金二〇九万〇、五六九円およびこれらに対する昭和四八年八月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告小泉うめに対し金八三二万八、二三〇円、同小泉俊夫、同小泉浩三、同安延久美子に対し各金二五一万八、八一九円およびこれらに対する昭和四八年八月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告小泉うめ(以下原告うめという。)、同小泉俊夫(以下原告俊夫という。)、同安延久美子(以下原告久美子という。)、同小泉浩三(以下原告浩三という。)はそれぞれ訴外小泉軍治(以下亡軍治という。)の妻、長男、長女、三男である。

2  亡軍治は、昭和四七年一二月一六日午後八時五五分ころ、八王子市明神町四の二九二先路上を横断中、同道路を大和田橋方面へ向け進行中の、被告所有、運転の自動車(番号三三さ一七六八番)にはねられ死亡した。

3  亡軍治は昭和一一年七月二三日より日本国有鉄道に勤務し、死亡時は日本国有鉄道東京西鉄道管理局八王子機関区で車両検査長の職にあつた。

4  亡軍治の得べかりし利益

(1) 賃金収入の喪失 一、四二九万三、八〇二円

死亡時の賃金(昭和四七年一月から一二月まで)は二二一万八、六七三円、死亡時の年齢は五二歳であるから就労可能年数は一一年が妥当である(日本国有鉄道には停年制はない。)。一一年分の賃金を一括して受領する際の中間利息を控除するホフマン係数は八・五九〇である。同人の生活費は収入の二五パーセントが妥当である。

以上を基礎にして本件事故により就業不能となつたため失つた賃金を計算すると金一、四二九万三、八〇二円となる。

(2,218,673-2,218,673×1/4)×8.59=14,293,802

(2) 年金収入の喪失 三三〇万七、三八四円

亡軍治は事故当時すでに年金受給資格があり、六四歳から七四歳まで一一年間年金の支給を受けることができる。

事故当時退職したとして年金額は金八二万八、二二六円である。六四歳から七四歳までの年金を現在一括して受領する際の中間利息を控除するホフマン係数は五・九九である。生活費として控除する額は三分の一が妥当である。

以上を基礎にして本件事故により失つた年金収入を計算すると、金三三〇万七、三八四円となる。

(828,226-828,226×1/3)×5.99=3,307,384

(3) 亡軍治死亡により妻うめが遺族年金四一万四、一一三円の支給を受けているから、二二年間分の遺族年金を控除する(妻うめの遺族年金を一括して現在受領するとして中間利息を控除するホフマン係数は一四・五八である。)と、亡軍治の得べかりし賃金、年金収入は金一、一五六万三、四一九円となる。

17,601,186-414,113×14.58=11,563,419

(4) 退職手当の喪失 二五二万一、二六八円

亡軍治が六三歳まで就業して退職したとすると、退職手当は八二五万一、四二六円となるところ、本件事故により退職手当五七三万〇、一五八円を受領したから、その差額金二五二万一、二六八円の退職手当を喪失した。

120,600×57.0165×1.2-120,600×47.51375=2,521,268

5  亡軍治の葬式費用として、原告うめは金三〇万円を支出した。

6  原告うめは、長年の伴侶であり働きざかりの夫を失つて、その精神的苦痛は甚大であり、慰藉料としては金五〇〇万円が相当である。原告俊夫、同久美子、同浩三は父を失つて、その精神的苦痛は大きく、慰藉料としては各金五〇万円が相当である。

7  亡軍治の賃金、年金、退職手当金の逸失利益合計金一、四〇八万四、六八七円を原告らは法定相続分に従つて、原告うめは金四六九万四、八九七円、原告俊夫、同浩三、同久美子は各金三一二万九、九三〇円宛相続したところ、自賠責保険金五〇〇万円を受領したので、法定相続分に従つて原告うめは金一六六万六、六六七円を、原告俊夫、同浩三、同久美子は各金一一一万一、一一一円を前記相続分から差引くと、原告うめは金三〇二万八、二三〇円、原告俊夫、同浩三、同久美子は各金二〇一万八、八一九円を相続したことになる。

8  よつて、原告うめは被告に対し、右相続分、葬儀費用および慰藉料合計金八三二万八、二三〇円、原告俊夫、同浩三、同久美子は被告に対し、右相続分および慰藉料合計金二五一万八、八一九円およびこれらに対する事故後である昭和四八年八月一七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3ないし5の事実は不知。

3  同6、7は争う。

三  被告の主張

本件事故現場は丁字路であつて横断禁止場所であり、附近には歩道橋が設置されているが、亡軍治は飲酒酩酊のうえ無謀な横断歩行をしたため本件事故が生じたのであつて、かかる被害者である亡軍治の過失は損害額を定めるにつき十分に斟酌されるべきである。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、損害額について判断する。

成立に争いのない甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証、証人高橋四郎の証言および原告本人小泉うめの尋問結果によれば、次の事実が認められる。すなわち、亡軍治(大正八年一二月二二日生)は昭和一一年七月二三日より日本国有鉄道に勤務し、死亡時は日本国有鉄道東京西鉄道管理局八王子機関区車両検査長をしていたこと、昭和四七年一月より一二月までの給与賞与は二二一万八、六七三円であつたこと、日本国有鉄道には停年制がないこと、亡軍治は退職年金の受給資格があり、年金額は八二万八、二二五円となること、遺族年金はその二分の一であり、原告うめは遺族年金四一万四、一一三円を受給していること、亡軍治は退職手当金五七三万〇、一五八円を支給されたこと、同人が六三才まで勤務したとすると退職手当金は六八七万六、一八九円となること、原告うめは亡軍治の葬式費用として金三〇万円を支出したこと、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

右認定の事実によれば、亡軍治の死亡による損害額は次のとおり算定される。

1  亡軍治の死亡時の年令は五二歳であるから、就労可能年数は一一年であり、一一年分の中間利息を控除するホフマン係数は八・五九〇であり、生活費を二五パーセントとみるのが相当であるから、これを基礎として亡軍治の得べかりし収入を計算すると、金一、四二九万三、八〇二円となる。

(2,218,673-2,218,673×1/4)×8.59=14,293,802

2  また、亡軍治の平均余命年数が二二年であり、六四歳から七四歳まで一一年間年金を支給されたとした場合の中間利息を控除するホフマン係数は五・九九であり、生活費として三分の一を控除するのが相当であるから、これを基礎として亡軍治の六四歳から七四歳まで一一年間の年金収入を計算すると、金三三〇万七、三八四円となる。

(828,226-828,226×1/3)×5.99=3,307,384

3  原告うめは遺族年金を受給しているから、二二年間遺族年金を支給されたとした場合の中間利息を控除するホフマン係数は一四・五八であり、これを基礎にして遺族年金を計算すると、金六〇三万七、七六七円となる。

414,113×14.58=6,037,767

これを前記亡軍治の得べかりし賃金、年金収入合計金一、七六〇万一、一八六円から控除すると、金一、一五六万三、四一九円となる。

17,601,186-6,037,767=11,563,419

4  亡軍治が六三歳まで勤務したとして退職した場合の退職手当(原告は整理退職として計算しているが、国家公務員等退職手当法六条によれば退職手当の最高限度額が規定されているから、加算措置はとらない。)とすでに受領した退職手当との差額は金一一四万六、〇三一円となり、同額の退職手当を喪失したことになる。

5  原告うめは、亡軍治の葬式費用三〇万円を支出した。

6  亡軍治の死亡による慰藉料は、諸般の事情を考慮し、金五〇〇万円(原告うめは金三五〇万円、その余の原告らは各金五〇万円)が相当である。

7  以上のように、亡軍治の死亡による損害額は合計金一、八〇〇万九、四五〇円となる。

三  ところで、被告は過失相殺の主張をするので、この点について判断する。

成立に争いのない乙第三、四、五、六号証および被告本人尋問の結果によれば、亡軍治は当日午後五時から職場の忘年会に出席して飲酒し、午後七時三五分ころ同僚と別れた後に本件事故に遭遇したこと、本件事故現場は交通整理の行われていない丁字型交差点であり、同交差点附近には横断歩道が設置されていないこと、被告が気付いたときにはボンネツトの上に人の顔が見えたとたんにフロントガラスにヒビが入つて事故を起したことに気付いたことが認められ、これに反する証拠はない。

右認定の事実によれば、亡軍治は飲酒酩酊のうえ本件道路を横断しようとしたもので、横断に何らかの不注意による過失があつたものと推認されるが、他方、被告にも前方注視義務違反の重大な過失があつたものと推認されるから、被害者の過失は二割であると解するのが相当である。

そうすると、被告が原告らに対し賠償すべき損害額は金一、四四〇万七、五六〇円となるところ、原告らが自賠保険金五〇〇万円を受領したことは原告らの自認するところであるからこれを控除すると、金九四〇万七、五六〇円となる。これを法定相続分により原告らが相続したとすると、原告うめは、金三一三万五、八五三円、その余の原告らは各金二〇九万〇、五六九円となる。

四  そうすると、被告は原告うめに対し金三一三万五、八五三円、原告俊夫、同浩三、同久美子に対し各金二〇九万〇、五六九円およびこれに対する本件事故後である昭和四八年八月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。

よつて、原告らの本訴請求は右の限度において正当であるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 村重慶一)

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